だいぶ前のことになりますが、テレビでイタリアのフィレンツェで鞄作りの修業をしている日本人を追ったドキュメント番組を見たことがあります(情熱大陸だったと記憶していましたが、調べてみたらどうやら違うようでした)。
その日本人とは大平智生さんという方です。
チェレリーニで修業をされてて「Cisei」というブランドを立ち上げた時のタイミングだったようです。
どういうきっかけでその番組を知ったのかは忘れてしまいましたが、その放送で何よりも楽しみにしていたのは、彼の生き様や作る鞄というよりはむしろどんな工具を使っているのか、どんなミシンで縫っているのか、あるいは工房の風景とかそんなことばかりが気になってしようがありませんでした。
その一コマで大平さんが実際に使用していたのがこの、VERGEZ-BLANCHARD社のL’INDISPENSABLEというナイフでした。
もちろん当時はどこのメーカーのどういった商品とか全然わかりません。
刃をおさめる鞘の材質が真鍮で、うわ、めっちゃかっこいいなぁ!と思ったのを覚えています。
日本の道工具はそれはそれでかっこいいのですが、ヨーロッパの工具はまたなんとも言えない色気というのか、なにか「見せる」ことを意識しているかのような風貌を備えているように感じます。
放送当時ももちろんインターネットはありましたが、今のようにひじょうにニッチな商品までも十分に網羅し流通している、そんな状況ではありませんでした。
職人仲間と、ああいうかっこいい工具とかいつかヨーロッパから引きたいよねーと言い合っていたものです。
そのことは頭の片隅に残っていましたが、日本の道具ももちろん優秀ですので仕事ができないわけではありません。
ですから必死になって探すということにもならなかったのだと思います。
ところがこれだけSNSなんかが発達してきますと誰かがどこかでそういった写真や情報をアップしてくれます。
インスタグラムでフォローしていたJill Craftさんによる、このナイフの鞘にカッターの替え刃のように装着して切るためのエクステンションブレードを京都の刃物屋さんと企画して販売しているという投稿に出会いました。
次回入荷するぶんに余裕があるからご希望の方はどうぞということでした。
繰り返しますが、別にこのナイフが無くても仕事はできるんですよ。
必要無いってわかっているんです。
わかっているんですが、出会ってしまったものは仕方がないのです。
迷うことなくすぐに連絡をしてしまいました。
ブレードを収める鞘も販売しているお店も知らなかったので、そちらも教えていただき無事購入ということになりました。
何年か越しの片思いが成就したような気分です。