二つ折財布 <レグルス> 製作記 その7

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前回書きましたようにいろいろたくさんあったパーツも背表紙(上パーツ)、お札用の仕切り(真ん中パーツ)、内装の3つのパーツに落ち着きました。
で、これらのパーツをお札用の仕切りをサンドイッチするように貼り合わせます。
そうすると、

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という感じで二つ折の財布の形になりました。
これで両サイドをL字型にミシンで縫っていきます。ただここのミシンがけがなかなか緊張する作業なんです。
ここで失敗してしまうと今まで進めてきたパーツ製作がほとんど無駄になってしまうからです。
未熟な頃は失敗することもありその恐怖感は今でも顔を出します。
直線を縫うだけですから難易度もそれほどないようにみえるかもしれません。
コバの端から2.5ミリ〜3ミリあたりを縫っていくのですが、安定した平べったい生地面を縫うのでしたらたしかに難しくありません。ただ、この二つ折財布でいうと薄く漉(す)いた革をミルフィーユのように重ねた箇所(多いところでは10枚以上にもなるところも!)を縫っていかねばなりません。しかも端にいくほどコバの厚みが薄くなるように斜めに漉いているので水平がでていないのです。斜面を縫っていく感じなんですね。ぐらぐらしながら縫うとずるっという感じですべってがくんと針を落としてしまうのです。こわいですよ〜。

というわけですので、デザインのかっこよさもそこなわず、かつ安定的に仕上げられるように設計を腐心したのがこの二つ折財布の小銭入れの形なんです。そら自画自賛もしたくなりますよね。

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なんとか仕上げのL字型のステッチも終わりました。
あとは仕上げですがじつはここからもけっこうたいへんなんです。
おいしいお酒をいただけるようもうひと頑張りです。

二つ折財布 <レグルス> 製作記 その6

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さてさてカード入れの製作です。
レグルスで採用しているカード入れは一段一段カード段の両側を貼付けて底をしつけ縫いしてゆきます。
この場合は3段ですね。

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もちろん注意点としては同じ幅で均等に貼付けるということです。
均等な幅で貼り込んでいくのはなかなかたいへんな作業でそれぞれ工夫されてるんだろうなと思います。
私も最初は苦労しましたが、先輩の職人さんにいろいろと教えていただきゲージを自作したり、幅定規を用いたりして貼り込んでいってます。
ゲージを作るのがいちばん早く正確に作業を進めることができると思うのですがどうでしょうか。

3段分が終わり最下段を貼付けたら片側を揃えるためカットします(カード段は右側、小銭入れは左側)。
カットした側にステッチをかけ一連のコバ処理をします。
これでカード段、小銭入れがそれぞれ仕上がりました。

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そして中仕切りの土台にカード段と小銭入れを貼り込んでいきます。
しっかりと圧着したら、中仕切りの本裁ち用の刃型で本抜きしていきます。
本抜きが終わりましたら(下の画像最下段)、トップにステッチをかけて一連のコバ処理をすれば中仕切りの完成となります。

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これでレグルスを作るための各パーツがすべて仕上がりました。
次はこれらを貼り合わせてまとめにかかります。

二つ折財布 <レグルス> 製作記 その5

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「小銭入れかぶせ」に「前胴+マチ」をコの字型に縫い付けたらくるりんと前胴を折り返しマチを小銭入れかぶせに接着すると小銭入れの形になりました。

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構造はおもてむき一室の小銭入れになっていますがかぶせを開けてみると中にもう一つポケットが内蔵されておりチケットや鍵などが収納できるようになっております。
この構造でしたら厚みも二室仕立てよりも薄く仕上げることができます。

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小銭入れはこの下にもう一枚パーツをはさみます。
これで小銭入れの部分はほぼ完成となります。

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今回は小銭入れの形を自分でも気に入っているので画像を多めにアップしてしまいました。
いかがだったでしょうか。
製品のパターンを考えるのは折り紙の折り方を考えるようで、形によっては出口が見えないしんどい作業です。
ただ作ることが好きな人間にとってはあれこれ悩むのは楽しみの時間でもあります。

次は小銭入れとは反対側に配置されることになるカード入れの製作に移ります。

二つ折財布 <レグルス> 製作記 その4

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前回までが下準備ともいうべき工程でした。
これから本格的な組み立てに入ります。
まずはホックを打っていきます。
ホックを打った小銭入れの「前胴」と「マチ」を取り付けの向きに注意しながら接着します。

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そして胴の両脇のマチを接着している箇所だけステッチをかけます。
糸処理をし→ステッチをかけたところへネンを引き→下塗り液を塗布し→バフをかけ→染料を入れるという一連の工程をこなしていきます。
それとともに、「小銭入れかぶせ」に底用のパーツを接着しておきます(下の画像左端)。
「小銭入れかぶせ」にできあがった「小銭入れ前胴+マチ」のパーツを設置していきます(下の画像真ん中)。
そして小銭入れの中に隠しポケットができるように前胴にステッチをコの字型にかけていきます(下の画像右端)。

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糸処理をして前胴をくるんと折り曲げるようにしてひっくり返します
両マチを小銭入れかぶせに接着すれば小銭入れ部分はほぼ完成となります。

当初、二つ折財布のパターンを考えているとき小銭入れ部分は折りたたみ式の二室にしようかなと思っていました。
買い物等でもどってきた釣り銭をたとえば500円玉・100円玉・50円玉と10円玉・5円玉・1円玉といったように二つに分けて収納してもらえれば次回小銭を出す時に便利かなぁと考えたのです。
市販されている他のメーカーも二つ折財布の小銭入れ部分をそのようにつくっているところはほとんどありません。その意味でもやる価値はあるのかもしれないと思いました。
まわりの人にサンプル作品を見てもらいこの小銭入れ部分はどうだろう?と感想を聞いてみました。
ところが返ってきた答えは「けっこうじゃまくさいと思う」ということでした。
そうなんです。
冷静に自分が使っているところを想像してみましょう。
駅の券売機でかえってきたおつりをいちいちていねいに100円玉はこっち、50円玉はこっちね、10円玉はこっちよ、というようなことを急いでるときにしていられるでしょうか。あるいはうしろに人が並んでいるスーパーのレジで受け取ったおつりをそういうふうにするでしょうか。

製作の上でもデメリットがあります。まずパーツ数が増えるため一気に工程が増え複雑になります。パーツが増えるということは折りたたんだときの厚みが増してしまいます。
ただ小銭入れ内のポケットinポケットというアイデアは切符や鍵、あるいは御守りといったものを収納できるようなものであれば便利なのではないかという思いは残りました。
ありふれた構造ではなく形もスマートでポケットinポケットの条件も満たせるパターン。
クリアするのは簡単ではありません。
そこからなかなか進みませんでしたが厚紙をいろいろカットして折り曲げたりしていたらようやくこの形に行き着くことができました。
それなりにというか、かなり自分でも気に入っている形です。
構造的にも手応えありだなと思います(自画自賛)。
実際に革を使ってサンプルができあがった時はニヤニヤがとまらず、これを肴にお酒が呑めるなぁと思いました。これはモノに対する態度として私にとっては重要なんです。
しかし残念。
時間がきてしまいました。つづきはまた次回に。

二つ折財布 <レグルス> 製作記 その3

ネンを引き終えたら次はコバに薬品を入れ磨いていくことになります。

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私たちが使用する薬品というのはコバの表面を固めたり革の繊維と繊維の隙間を埋めるパテのようなものです。
コバをどう処理していくかというアプローチはたくさんあって、職人の数だけやり方があるとも言われるほど様々です。
私も先輩の職人の方法や見聞きしたやり方をいろいろと試してみたり、組み合わせてみたりと試行錯誤を重ねてきました。いま採用している方法や薬品もさしあたって現時点では最善かなぁというくらいで将来的にもっといい方法やすぐれた薬品に出会えば乗り換える可能性はおおいにあります。

画像にある「セットアップ常温型」というのは硬化剤の一種で革にしみ込ませると硬化し加工しやすくなります。最近は使う出番は減ってきました。
かわりによく使っているのが「下塗り液」というものです。
これは繊維と繊維の隙間を埋めてくれるパテのような働きをしてくれて染料を入れる前の下地が作りやすくなります。

薬品を入れたコバはバフと呼ばれる機械にフェルトバフや木バフ(本来は金属を磨いてバリを取ったり光沢を出すためのもの)を装着し一枚一枚磨いていきます。

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スイッチを入れると円形のフェルトバフや木バフが高速回転し革のパーツを押し当てることによってコバを磨こうというものです。
本来は金属や木材を研磨したりするものですので押し当てるのに革だともう少し固さが欲しい。
そのために硬化剤を使用します。
ただ硬化剤はそうして磨く時は力を発揮してくれるんですがその後のコバ面を染めるという工程で物足りなくなってきます。皮革には繊維の荒いもの、目の詰まってるものなど様々です。繊維の目が細かくしっかりつまっているものなら問題ないのですが、繊維の荒いコバ面に染料を入れてもその隙間に染料が入っていくだけで表面はガタガタで滑らかになってくれません。
そこで下塗り液を使ってみることにしました。これならある程度コバ面の固さも出すことができ染料を入れる際もパテのように繊維と繊維の隙間を埋めてくれているため染め上がりがきれいになります。

つぎは小銭入れ部分の製作です。(つづく)

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二つ折財布 <レグルス> 製作記 その2

今回はコバをつくっていくんですが、この段階でステッチをかけられるところは済ませておきます。

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次にこちらの画像をご覧ください。

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このチョコ色に染色されている部分が一般的に「コバ」と呼ばれている箇所です。
「木端」と書くそうなんですが、「木っ端微塵」の木っ端です。
おそらく革の切り口が材木を切断した時の様子に似ていることから名付けられたんでしょう。
コバの処理の仕方は大きく二つの系統に分けられます。
へり返しと切り目仕上げです。
へり返しは仕上げサイズより数ミリ大きめのサイズで裁断し端を薄くして裏側に折り返して処理する仕上げ方法です。
切り目仕上げは革の切断面に薬品を入れたりして磨いたあと染料をさして仕上げます。

へり返しは角の部分がすり切れた場合修理がやっかいになるんです。
ただ、名人が仕上げたへり返しは本当に美しい。
切り目仕上げはコバの部分の染料が剥げてきてももう一度磨き直して染料をさせば復活します。
修理・メンテナンスがしやすい。
でもコバを切り目で仕上げるのはけっこうな時間がかかります。
感覚的には市場に出回っている商品でへり返しと切り目仕上げの割合は6:4ぐらいかなと思います。
どちらがどうとはいえません。
最終的に作り手が自分たちの形にどちらの技術を落とし込んで表現したいかになるのでしょう。
TAMURAでは鞄も財布などの小物もコバは切り目仕上げを主に採用しています。

それではコバを作っていきますが、まずは「ネン」をいれていきます。

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これがネンを引くための工具です。先端部の形状によって「玉ネン」とか「溝ネン」とかいろいろ呼び名があります。
ネンを引く箇所はコバとステッチの間なんですが鞄と小物では縫う糸の太さも違いますし、ネンも引く幅を変えますのでそれぞれに使い分けています。
私たちは電力で先端部の温度を上げ熱を加えながら引いていく電気ネンを主に使っています。ここらへんは職人さんによってはアルコールランプ等で先端金具を熱して引く方もいらっしゃっていろいろです。私は一定の温度でコントロールできるため電気ネンが扱いやすいかなと思っています。電気ネンは道具屋さんで買ったものもありますし、ホームセンターでコンセント等を買ってきて普通のネンを電気ネンへと改造したものもあります。昔の職人さんは道具は自作が多かったんでしょうね。私も知り合いの先輩職人さんに教えていただいて作りました。画像では奥にあるネンを改造して自作するのです。ただ残念なことに先端の金具の部分を作ってくださる道具屋さんがもう少なくなってきました。寂しいことです。。

実際の作業はかなりしっかりと力を加えながらネンを引いていきますので台が必要です。
ほんとに力んで作業をするので、奥歯を噛み締めすぎて歯茎が痛くなり歯医者さんのお世話になったこともありました。
使用する台は大理石を用います(ホームページのTOPの画像を参照のこと)。パンをこねる時にも使われることも多いようですが、大理石の特徴は表面温度が冷たく一定であるということです。熱くなった電気ネンをコバに押し当ててネンを引くと同時に大理石の冷たさで締めていくという感じでしょうか。
そもそもネンは何のために引くのかという話ですが、コバを引き締めるのと装飾的な意味合いがあります。
パーツとパーツを貼り合わせる接着剤のうち熱を加えることによってさらに強度を増すものがあるのでネンをひくことでコバの貼り合わせ箇所を引き締め圧着度を高めることができます。
あとは装飾美。
ほんとはネン引きなんかしなくても商品として成立するんですよね。
でもネンが引かれた製品は見た目がガラッと変わってきます。
作業としては一工程ふえるわけですからコスト「増」にもなります。
ですのでやはりこだわった商品や高価格帯のものにネン引きされていることが多いようです。
具体的にはネンが引いてある製品というのは輪郭が与えられて顔立ちがシャキッと立ち上がるような印象を受けます。
清潔感も増します。
ネンの引かれていない商品はふわっとしたこころなしかぼんやりとした印象を受けてしまいます。
もしエルメス社の製品をお持ちの方はじっくりと商品を観察してみてください。
ビッしぃーーーときれいに見事なネンが入っていることでしょう。
ネンを引くことによる見た目や効果をよく理解しているメーカーにはとても大切にしている工程だと思います。

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二つ折財布 <レグルス> 製作記 その1

ちょうど二つ折財布 <レグルス> の製作がはじまりましたので、その製作風景をご覧になっていただこうと思います。
まず一つの財布を作るのにこれだけのパーツから成り立っています。

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意外と少ないと思われるかもしれません。
でもこの段階にくるまでにけっこうな工程を踏んでいます。
いちばん最初の裁断は粗型という本来欲しいサイズより全体に2ミリ以上大きめの粗い型で行います。
その裁断したパーツを漉き屋さんにお願いして革の厚みを薄く加工してもらいます(この工程もたいへん興味深いのでまた項をあらためてお伝えできればと思います)
そして革の厚みを調整したパーツ同士を貼り合わせると上の写真のようになります。
ですからパーツとパーツを貼り合わせる前はちょうど2倍のパーツ数になりますね。
だいたい平均的にこれくらいのパーツ数が一つの製品(この場合は二つ折財布)に使用されていると考えてください。
ここから本抜きあるいは本裁ちという作業に入ります。
パーツを裁断して仕上げていくのにもいろいろな方法があるのですが、私たちはこういった貼り合わせたパーツを作っていく際は粗型ともうひとつ「本型」という刃型を使用します。

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左側が粗型で右側が本型になります。
よく見ると左の刃型の方が右の刃型よりも少し大きめになっています。
少し大きめのサイズのパーツ同士を貼り合わせ、一回り小さい刃型で本裁ちする。
もちろん裁断を手裁ちにこだわってされる職人さんもいらっしゃいます。
よく手入れのされた革包丁で丁寧に裁断されたならば刃型の場合よりもきれいにできるかもしれません。高価な一点もののオーダー品となるとそうなります。
ただ一度に何百パーツも手裁ちでするのは現実的ではありませんのでこういった刃型をつかうことになります。また刃型にはカマ(実際の製作に入った時に目印ができるような刻み)やホック穴をあけるためのポンチを仕込んでおくことができるので、たくさんのパーツを同じ大きさに裁断できるだけでなく同じ箇所に穴をあけたりできるのです。
本抜き加工後のパーツはこんな感じになります。

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きれいに揃いました。
さてこうしてパーツをきれいに裁断できたところで次ぎはコバ(裁断面)をつくっていくことになります。
(つづく)