今回はコバをつくっていくんですが、この段階でステッチをかけられるところは済ませておきます。

次にこちらの画像をご覧ください。

このチョコ色に染色されている部分が一般的に「コバ」と呼ばれている箇所です。
「木端」と書くそうなんですが、「木っ端微塵」の木っ端です。
おそらく革の切り口が材木を切断した時の様子に似ていることから名付けられたんでしょう。
コバの処理の仕方は大きく二つの系統に分けられます。
へり返しと切り目仕上げです。
へり返しは仕上げサイズより数ミリ大きめのサイズで裁断し端を薄くして裏側に折り返して処理する仕上げ方法です。
切り目仕上げは革の切断面に薬品を入れたりして磨いたあと染料をさして仕上げます。
へり返しは角の部分がすり切れた場合修理がやっかいになるんです。
ただ、名人が仕上げたへり返しは本当に美しい。
切り目仕上げはコバの部分の染料が剥げてきてももう一度磨き直して染料をさせば復活します。
修理・メンテナンスがしやすい。
でもコバを切り目で仕上げるのはけっこうな時間がかかります。
感覚的には市場に出回っている商品でへり返しと切り目仕上げの割合は6:4ぐらいかなと思います。
どちらがどうとはいえません。
最終的に作り手が自分たちの形にどちらの技術を落とし込んで表現したいかになるのでしょう。
TAMURAでは鞄も財布などの小物もコバは切り目仕上げを主に採用しています。
それではコバを作っていきますが、まずは「ネン」をいれていきます。

これがネンを引くための工具です。先端部の形状によって「玉ネン」とか「溝ネン」とかいろいろ呼び名があります。
ネンを引く箇所はコバとステッチの間なんですが鞄と小物では縫う糸の太さも違いますし、ネンも引く幅を変えますのでそれぞれに使い分けています。
私たちは電力で先端部の温度を上げ熱を加えながら引いていく電気ネンを主に使っています。ここらへんは職人さんによってはアルコールランプ等で先端金具を熱して引く方もいらっしゃっていろいろです。私は一定の温度でコントロールできるため電気ネンが扱いやすいかなと思っています。電気ネンは道具屋さんで買ったものもありますし、ホームセンターでコンセント等を買ってきて普通のネンを電気ネンへと改造したものもあります。昔の職人さんは道具は自作が多かったんでしょうね。私も知り合いの先輩職人さんに教えていただいて作りました。画像では奥にあるネンを改造して自作するのです。ただ残念なことに先端の金具の部分を作ってくださる道具屋さんがもう少なくなってきました。寂しいことです。。
実際の作業はかなりしっかりと力を加えながらネンを引いていきますので台が必要です。
ほんとに力んで作業をするので、奥歯を噛み締めすぎて歯茎が痛くなり歯医者さんのお世話になったこともありました。
使用する台は大理石を用います(ホームページのTOPの画像を参照のこと)。パンをこねる時にも使われることも多いようですが、大理石の特徴は表面温度が冷たく一定であるということです。熱くなった電気ネンをコバに押し当ててネンを引くと同時に大理石の冷たさで締めていくという感じでしょうか。
そもそもネンは何のために引くのかという話ですが、コバを引き締めるのと装飾的な意味合いがあります。
パーツとパーツを貼り合わせる接着剤のうち熱を加えることによってさらに強度を増すものがあるのでネンをひくことでコバの貼り合わせ箇所を引き締め圧着度を高めることができます。
あとは装飾美。
ほんとはネン引きなんかしなくても商品として成立するんですよね。
でもネンが引かれた製品は見た目がガラッと変わってきます。
作業としては一工程ふえるわけですからコスト「増」にもなります。
ですのでやはりこだわった商品や高価格帯のものにネン引きされていることが多いようです。
具体的にはネンが引いてある製品というのは輪郭が与えられて顔立ちがシャキッと立ち上がるような印象を受けます。
清潔感も増します。
ネンの引かれていない商品はふわっとしたこころなしかぼんやりとした印象を受けてしまいます。
もしエルメス社の製品をお持ちの方はじっくりと商品を観察してみてください。
ビッしぃーーーときれいに見事なネンが入っていることでしょう。
ネンを引くことによる見た目や効果をよく理解しているメーカーにはとても大切にしている工程だと思います。

