革製の杖ケース

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先日の展示会ではめずらしい製品を展示していました。
今回はその商品についてのご紹介です。

僕は趣味のお稽古ごとで合気道をしています。
その中で武器として「杖」(じょう)という長さ1m余りの木の棒を用いてするお稽古があります。
少し前になりますが、合気道のお師匠がその杖のためのケースを革で作ってほしいという注文をしてくださいました。

合気道道衣や杖を販売している武道具屋さんで杖ケースの販売はされているんですが、生地や合皮製のものがほとんどです。
本革製の杖ケースは見かけません。
どうしてでしょう。
やはりどうしても高価になってしまうのでそれほどニーズは少ないだろうと見積もられているのかもしれないというのがひとつ。
そしてもうひとつ、これが見かけないことの大きな原因かもしれません。
製作の上でやっかいな問題があるんです。

通常、かばんの仕上げ方には「内縫い」と「外縫い」とがあります。
有名どころでいうとエルメスのケリーバッグなんかは内縫いバージョンと外縫いバージョンが両方用意されていますね。
端的にいうと縫い目を内側に隠すか、外に出して見せるかという違いです。
内縫いのかばんは裏返しの状態で縫い終わります。
仕上げはぐるんとひっくり返して完成となります。
対して外縫いのかばんは最終の状態で縫い終わります。
ただし外側に出ている切りっぱなしの縫い目(コバ)に染料をさしたりいろいろ処理が必要です。
内縫いはふっくらと丸みを帯びた仕上がりになります。
外縫いはほっそりとしたシャープさを備えた仕上がりになります。
どう表現したいかで仕上げ方を選びます。

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僕は杖ケースに内縫いを採用することにしました。
細い筒のようにしたかったので内縫いによってよりきれいな円に近い形状をだせると思いました。
しかしここでやっかいな問題が浮上してくるのです。

まず、Tシャツとストッキングをひっくり返すところを想像してください。
Tシャツは全然難しくありません。
それに比べてストッキングは細いし長いしでひっくり返すのはTシャツに比べたらちょっとやっかいです。
やっかいというほどでもないよと言われるかもしれませんが、それは素材が薄いからです。
例えば素材が革のように厚みがあったら?
そうなんです。
杖ケースに内縫いを採用することの問題はここにあります。
かばんやTシャツのように口元のスペースが広ければひっくり返すのはそれほど難しくはありません。
しかし厚みがあって細い筒状で長いとなると一気にしんどくなる。

もちろん外縫いを採用すればそうした困難はなくなりますが、形の美しさは損なわれてしまいます。
僕としては細い筒状のものがかっこいいと考えていて、杖と木剣が一本ずつ入る最小限の細さを目指しました。
でもかっこいいからといって筒の径をあまりに細くしすぎたらひっくり返すことができません。
本体に付ける付属物もなるべく少なくしないと返す時の邪魔になります。
ひっくり返せるぎりぎりのところを狙いました。

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お師匠に作った杖ケースは革も上質なものを用い、裁断も贅沢な仕様で仕上げました。
ただそうするとコストがはねあがります。
そこで今回展示会で発表した杖ケースは裁断を工夫し、革も別のものを採用して廉価版として展示しました。
値段も比較的手の届きやすい価格帯であったせいか考えていたよりご注文をいただきました。
いくつかの色の中から選ぶ楽しみもあったのかなと思います。

先日、裁断のための刃型も仕上がってきました。
さっそく先発組の裁断を済ませ製作にかかっていきます。

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