刃型を使用して製作

前回の刃型から実際の商品を作りました。
帆布×レザーのトートバッグと小銭入れです。

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トートバッグはかなり容量が大きめとなっています。
高さが約35センチ、底のサイズは縦約20センチ×横約41センチとなっています。
もともとは特定の用途のためにオーダーいただいた商品だったのですが、定番商品として出したいなぁと少しブラッシュアップして今回の完成となりました。
容量が大きいのでマザーズバッグとしての使用もおすすめです。
本体のメインとなる生地が帆布ですし、レザーオンリーの鞄よりも重さは軽く仕上がっています。

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内装生地も今回はピッグスエードを使用しないでナイロン生地を使用しました。
コスト的にちょっとしんどいかなぁという高級ナイロン生地なんですが、思うような商材が見つかっていませんので今回思い切って使ってみることにしました。
その生地とは伊・リモンタ社製の生地です。

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プラダがナイロンバッグに使用していることでも有名ですね。
生地の質感もさることながら発色が抜群にいい商材です。
皮革素材に関しても言えることなんですが、なぜかイタリアの「色」は素晴らしい。
技術的にみても日本でも似せた色を染色する技術はあるはずなんです。
でもそれが商品としてあがってこない。
そこには様々な要因はあるのでしょうけど、イタリアにはファッションモード界を牽引している一翼としての矜持があるのかもしれません。

小銭入れは以前ブログにアップした商品なんですが、刃型を依頼する直前までデザインが二転三転しました。
なんかもう少し掘ったらまだ出てきそう、、というような感覚がいつもあって終わりがみえないんです。
ただ悲しいことに時間は流れていきますのでどこかで区切りをつけないといけません。
前回の小銭入れの形はホールドの感触に違和感がありましたので、それを軽減するカットを入れ、かつそのカットが映えるようにデザインしました。

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結果、小銭入れの中にある隠しポケットもさわりましたので収容力がアップとなりました。
カードサイズの収納が3カ所あり、お札を折り畳んで入れればミニ財布として独立したポジションでお使いいただけます。

さて。
これから発売のために全色揃えなければなりません。
そして撮影してもらわないと。
いそげ、いそげ。

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刃型をつくってもらいました。

さて刃型ができあがってきました。
届いた箱を開封する時はいつでもどきどきです。
私にはできないプロの技を見せてもらえるのは楽しい瞬間です。
この刃型というのは同じパーツを何度も型抜きするためのもので、量産品のために作ってもらいます。クッキーを生地から型抜きするのと同じですね。

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この刃型の作り方が面白いんです。
まず私たち職人が作って欲しい刃型のパターンをおこします。
そしてスウェーデン鋼という自在に曲げられるカッターの刃のようなものでそのパターンをふちどっていくのです。
ザッツ手仕事です。
もちろんスウェーデン鋼を曲げて刃型を作るという工程は機械化されてもいます。
「機械彫り」なんて言い方をしたりします。

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(こういった細かいパーツや刃型を上下左右に置き換えてもパーツに正確に重なるといった精度を出す場合は「機械彫り」が必要になります)

ただその機械を導入するには多大な設備投資が必要です。
たくさんのロットで、ということでなければそのぶん刃型の値段も高くなる。
だからこそ職人さんがご自身の技で作ってくださるところがまだまだあります。

とはいってもこういった手仕事が多いような現場にもIT化の流れは確実におしよせてきています。
私は今のところコンパスや定規であーだ、こーだと考えながら手でパターンを切っています。
IT化をすすめている現場ではこの作業をパソコン上でイラストソフトやCAD的なソフトで描き、そのデータを刃型屋さんに送ります。
するとプロッターと呼ばれる機械でデータをもとに型紙を切り出してくれるわけです。
正確に早く。
もういいことづくめですよね。

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写真は今回私が手で切ったパターンたちです。

<ソフトで製図すると画面上で失敗や修正が容易に行える>
私は今でもやってしまうんですが、「あ、縫い代ぶんを入れるの忘れた!」てなことでせっかく切ったパターンが無駄になることもたまにあります。
そういうミスを減らせます。

<パターンを送らなくていいから送料がいらない>
これは言うなれば紙をわざわざ宅急便で送っているわけですから、なかなかもったいない作業です。

<機械がパターンを切ってくれるから正確である>
これは言うまでもありません。
じゃあいちいち手でやってないでソフト使えばいいやんという話ですが、、、

そのソフトについて使いこなすためにまたお勉強をしないといけないわけなんです。
忙しいと言い訳して逃げていました。
でももう逃げ切れません。
ということでブログに書いて逃げられないようにしました。

「玉縁(たまぶち)の研究」

 

先日、オーダーにて承ったバッグを製作しました。
胴部分には極力何もつけないシンプルな装いのショルダーバッグが欲しい、という依頼です。
では、ということでポケットなどなにもつけないのっぺらぼう鞄を考えてみました。

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使用した独シュリンク(シュランケンカーフ)という革は素材として強い「ちから」を秘めているのでほんとうはこのような仕立て方がいちばん似合ってるんだと個人的には思っています。
表層に凝ったカットやデザインがないぶん素材としての表情がいつにもまして目につきますしクローズアップされることでしょう。でも独シュリンクはそうした視線をじゅうぶんに跳ね返す力を持っています。
とはいうもののあまりにのっぺらぼうすぎるのは面白くないので、そこはかとないアレンジを加えてみました。
それが今回の研究課題の「玉縁」です。

玉縁とは洋服のポケットの口元なんかにも用いられる技法ですが、かばんの世界で言うとパーツとパーツを縫い合わせる間に筒状にした革のテープ(あるいは他の素材でも)を挟み込んで縫い上げたもののことです。

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玉縁を入れることの”意味”ですが、いろいろな理由があるようです。「ようです」と書いたのは僕もはっきりと誰かに確認できたわけではありません。でも考えるといろいろなことが見えてきます。

まず装飾としての効果をねらえます。
フォーマル度もアップします。
本体色と違う色で玉縁をいれることで縁取りがより目立ち、全体としての印象も変えることができますね。

また骨組みとしての役割を担ってくれます。
たとえばキャンプでのテントの組み立てを想像してください。
化繊シートはそれだけでは自立しませんが、間に金属等のバーを組み込むことによって張りをだし、立体成形を可能にします。
これをかばんに応用するとナイロン生地を本体に使用した場合、玉縁のなかにプラスチック芯を入れうすいテープ等で巻いて骨格とすればしゃきっとした張りをもたせたりすることも可能です。
ただこれには難点もありまして、よく学生鞄とかで見かけたことがあると思います。
玉縁のテープがすり切れて中のプラスチック芯がびよんと飛び出す現象です。
こうなってしまうとひじょうに修理はやっかいになってしまいます。
ですので玉縁に芯をいれないように工夫します。
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写真のようにテープの厚みをあげて端に漉きをかけて山がたにします。それを貼り合わせると断面が涙の形状になります。これを芯レスの玉縁として使用するのです。これだと革テープがすり切れて芯が飛び出すということはありません。ただ革と革の間にはさみ込んで縫い合わせる箇所に傾斜が生まれるので縫製が困難になります。一長一短がありなかなか悩ましいです。

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あとは糸を隠すという効果もあります。
玉縁無しでは縫い割った溝に縫い糸が見えてしまうことがありますが、玉縁を入れることによって隠しやすくなります。

今回のオーダーのシンプルショルダーについてはシンプルすぎてのっぺらぼうになりすぎないように装飾としての意味合いが強い玉縁を入れました。通常よりも幅広のテープ幅にして太めの玉縁にすることによって若干カジュアルダウンさせてみました。このような遊びもできますね。

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「玉縁の研究」いかがだったでしょうか。
玉縁を入れない方が良い場合もあるでしょうし、入れ方にも様々なやり方があります。
セオリーも大切ですが、少し逸脱することによってがらっと表情が変化することもあります。
素材やデザインと対話していろいろ考えるとより広いレンジの鞄作りが実現できるのではないでしょうか。